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イガチョフ

ごみ捨て

 年を取るということは障がいを持つことに等しい。昨日の夜、家事の仕上げに玄関の掃き掃除をしていた。玄関は毎日出入りするだけに埃がたまりやすい。来客が少ないのでつい掃除の手を抜いてしまい、油断をするとすぐ汚くなってしまう。明日は燃やせるゴミの日でダストボックスのゴミ袋をまとめた。アパート住まいで玄関前の踊り場に埃を掃き出そうとしていたら、一つ隣の部屋のおばあさんが出てきた。この頃顔を合わせていなかったので気後れしたが、挨拶を交わした。おばあさんは膝が悪く杖の世話になっている。おばあさんはちょうど階下のゴミ捨て場に燃やせるゴミを捨てに行くところで、不自由な足を引いて階段を降りようとしていた。「僕が捨てに行きますから、任せてください」と気を使うと、「悪いね。いつもだったら孫が来てくれるんだけどね」おばあさんは以前孫息子と二人暮らしであったが、今は一人暮らしを余儀なくされている。昔は威勢のいいおばさんだったが、週に3度、高齢者向けのデイサービスを利用するようになってからというもの、すっかり年寄りの寂しい背中を見せるようになってしまった。朝、デイサービスのワゴン車がアパート前に止まる。運転手と女性職員が笑顔でおばあさんを迎えに来る。おばあさんから手提げバッグを預かり両脇を二人で抱え階段を慎重に降りる。とても時間がかかり危なっかしい足取りだ。そんな姿を見ていたので、何かねぎらいの言葉をかけてあげたかったが声が出なかった。「明日は病院に連れて行ってもらうんだよ」近所に住む年下の友達に付き添ってもらいタクシーで向かう。その友達も一人暮らしの未亡人だ。よく花壇の前で土いじりするのを見かける。「病院に行けるんですもの。まだ大丈夫ですよ」「ありがとね」井戸端会議で近所の情報通だった頃のおばさんの姿はない。部屋に戻る後姿が小さく寂しげだった。たまに玄関前にラーメン屋のどんぶりが置いてある。娘からの同居の誘いを断って一人住まいを続けるおばあさんの覚悟が伝わってくるのだった。

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