統合失調症の何が問題かというと、急性期を抜けたあとの虚脱状態である陰性症状がなかなか改善されないことだ。引きこもりがちになり、意欲や気力が全く湧かない。感情の起伏も少ないため表情がぱっとしない。今の自分からは想像もつかないが、この陰性症状に5年間も苦しめられた。退院後、デイケアには週2回行くことを医師と両親と約束したが、行きたくなくて食事と洗面を終え服に着替えたにもかかわらず、バスの時刻になるまで布団に潜っていた。5年目にして劇的な快復を遂げたのは、恐らく犬を飼ったことが大きい。当時、大通公園の路上でニャン子先生という白衣姿のおじさんが保護犬と猫を連れ寄付金集めと譲渡先を見つけるためのボランティア活動をしていた。母と妹の目に留まったのが我が家に来ることになったポメラニアンの雑種犬だった。犬というよりは映画「グレムリン」のキャラクター「ギズモ」のようで、母と妹はその愛くるしい目を見て一目ぼれしてしまった。抱いてしまったが最後、翌日には我が家で受け入れることになった。ニャン子先生が自宅まで車を走らせてくれるということだったが、なかなか現れなかった。遅い時間になって犬を連れて現れた。ニャン子先生にはガソリン代と寸志を包んで手渡すと、恐縮しながら受け取り帰っていった。ゲージの代わりの段ボール箱を用意しておいたが、あまりにも匂いがきつくて風呂場で母が体を洗ってやった。赤い首輪をはさみで切るとようやく落ち着いた様子だった。名前は「銀」母の独断で決めた。この日を境に自分は明るさを取り戻して行ったのだった。朝と夕方の散歩が楽しみで足取りが軽くなった。引きこもっていたので人間不信に陥っていたが、銀ちゃんは飼い主に忠実で裏切らない。まけまけで動物愛護センター「あいまる」を見学した。多頭飼育崩壊の保護猫と犬が受け入れ先の家庭を待っている。かつての保健所の暗いイメージはない。保護されている犬は一匹。アイヌ犬とも呼ばれる北海道犬だ。母が昔飼っていた犬種と同じだった。
イガチョフ