2週間前から咳が続く息子を病院に連れて行った。自宅の近所に規模の大きい耳鼻咽喉科がある。昨夜は咳き込みがひどくて苦しそうにしていた。風邪の症状とは違い空咳が出るので勉強にも身が入らない。来週には定期テストを控えている。本人は早めに病名をはっきりさせたく、授業は2時間で早退することにした。欠席して受診でもよかったが、どうしても物理と地理の授業は受けたかったので早退を選んだ。午後1時半からの診察で予約をしていないため時間がかかると受付で言われたが、すぐに看護師による問診があり、診察室に案内された。医師は、「このような症状は耳鼻科ではなく呼吸器内科で診てもらったほうが安心できますよ。一応診察はします。お薬もお出しできますがいいですね」と言って、鼻から喉を見る医療器具を息子の鼻に入れた。息子は懸命に耐えたが、苦しそうな表情だ。こういうときほど無知を嘆いてしまう。薬局で薬剤師から処方された薬はアレルギーの薬だと聞かされた。息子と話し合って時間のある今日中に呼吸器内科を受診することに決めた。スマホで調べたがなかなか条件の揃う病院が見つからず、札幌市の医療機関案内をダイヤルした。札幌駅近くのオフィスビルのクリニックが見つかり電話したところすぐに診てもらえることになった。清潔感のあるクリニックで患者もまばらだった。3番目に呼ばれて診察室に入ると白髪の60代半ばの男性医師がデスクの前に座っていた。事情を話すと開口一番、「俺に何しろって言うんだろうね。首から上の問題だと思うよ。薬を処方した時点で診断は下っているということだからね」医師も困惑気味である。「胸が痛いわけではないし、この処方でいいはずだけど、一応写真とっておこうかい?」結果は、肺炎でも喘息でもなく全くの白。「もし、咳が取れないようだったらまたおいで」帰りの地下鉄ですっかり力尽きてしまった。息子にとってこの内科の先生への信頼度は高かった。「こういう先生が名医だね」夕食のカレーライスをおかわりした息子は満足げだった。
イガチョフ