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イガチョフ

函館論

 四月にアメリカへ留学する甥っ子と食事に出かけた。場所は狸小路コミチの花尻ジンギスカンだ。久しぶりに生ビールで喉を潤した。甥っ子は石川県の航空学校の生徒で、元旦の能登半島の地震の際は札幌に帰省していたので難を逃れたのだった。先日、留学前に荷物を引き上げに石川県に向った。父親の運転するレンタカーで現地に向ったが、ところどころ道路が陥没しており、普段の倍以上の時間をかけなければ到着できなかった。学校は国の災害対策の拠点になり立ち入りが厳しく制限されている。輪島にも立ち寄ったが市街地はまさに戦争のあとの焼け野原のようで悪夢を見ているようだった。この体験は会う人ごとに語りつくされたものだ。甥っ子はアメリカへ飛ぶ前に、墓参りに行くつもりだと言った。今回の災害に巻き込まれなかったのもご先祖に守られているからだと信じている。墓は函館にあり、甥っ子も自分もともに函館生まれだ。甥っ子も函館に深い思い入れがあり、忘れられない思い出が詰まっている。自分も将来的には函館に拠点を移したいと望んでいる。今は子供たちとの生活を守ることを第一にしなければならない。経済的には国のサポートを受けているが、それが当たり前だとは思いたくない。自分は周りの人間と比べて能力が劣っているわけではなく、むしろ驚かれるくらいの技術を持っている。いつもそうなのだが自己評価が低くて、それが足を引っ張っている。若い頃は怖いもの知らずで、いろいろな人間と関わってきた。まるで小説の主人公になったみたいだった。だから今の札幌生活がつまらなく感じてしまう。札幌は動くには広すぎる。安心して酒も飲めたものではない。函館だったら誰か彼か送り届けてくれたし、歩いても帰れる距離だ。「人が人を呼ぶ街」函館は黙っていても魅力的な人間が集まってくる。自分の器に合うのは函館ぐらいの大きさだ。よほどの覚悟で函館に戻ることになる。これが自分に残された最後のチャンスだろう。

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