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  • イガチョフ

夜の港

落ち着いた大人の雰囲気が漂うバーでウイスキーをたしなむ。これからは家飲みをやめることにした。こたつに両足を突っ込んで座椅子に座って飲む酒がうまいわけがない。酔っ払えればそれでいい。そういう人もいるだろう。多少背伸びして高級なバーで過ごす時間が人生を豊かにしてくれる。自分は20代からずっとバーに通い詰めた。下宿から近く、函館港の香りに包まれた夜を過ごしていた。居酒屋やスナックは近くになく、自然とバーに足が向いた。マスターは細身で無精ひげが伸びていて、その様はキリストを想像させた。「西部地区のジーザス」と呼ばれていた。自分はまだ学生で酒の味がわからず、控えめにビールを飲む程度であった。バーに来る常連客は大人ばかりで、地元の文化人のたまり場でもあった。毎晩通ったが、当然金が続かないので、出世払いで飲ませてもらった。若者が店に出入りするのが珍しく随分かわいがってもらった。暗がりで見る年上の女性には心が動いた。店が立て込むとマスターの手伝いをした。空いたグラスを下げ、シンクで洗剤を洗い流す。ときにはマスターが不在になる日もあり、留守番をしたこともある。夕方、店の前を通るとマスターがカウンターに座り老眼鏡をかけて読書する姿を目にした。そんなマスターに憧れを持ったものだ。バーの2階はアトリエで、マスターは油彩絵の具で作品を制作していた。滅多に客を2階に上げなかった。マスターにコーヒーを淹れ2階に運びに上がった時、イーゼルに立てかけられたキャンバスを見たが、いつも白紙のままだった。どんな作品を描いているのか全くわからないままだ。20代の夜を飾ったこのバーは、今は廃業して、高級貸別荘になった。マスターはこの世の人ではない。今、港街に戻っても霊のささやき声に耳をそば立てるだけだ。それでも戻りたいのが当時の夜だ。人は人生で何を学ぶのだろう。きっと孤独の夜が答えを導いてくれる。酒の力で想像と思考は飛躍する。酔いで演出しないと夢の世界への扉は永久に開かないのは確かなようだ。

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