春には、娘は高校3年生だ。大学進学に向けて本格的に準備をしなければならない。貧困を跳ね除けて飛躍する娘の後押しは親の務めだ。本人は「いばらの道だ」と深刻そのもので無理をしていると感じられる。自分で決めたことなので親が出る幕ではないが、娘の不安を少しでも減らさなければならない。娘は自分の心配のみならず、弟の面倒も考えていて、「ホントに一人で何もできないね。やかんでお湯を沸かすこともできないんだから」とほとほと困った顔をしている。娘は幼少の頃から手先が器用で、小学生の頃に将来建築士になりたいとすでに決めていた。中学から始めた美術部の活動を活かすために、大学はデザイン系の建築コースを選ぶ予定だ。一番の心配はお金の問題だが、各種奨学金制度を調べて、上手く活用するしか術がない。家庭の経済的な事情で進学を断念することだけは避けたい。最近はこんなことばかり考えなくてはならなくて、心が落ち着く時間がない。現実逃避したくなるが、逃げ場はどこにもない。相談して解決するようなことでもない。子供が小さい時、夜に熱を出し近所の小児科に駆け込んだ。おろおろする自分は看護師さんから「お父さん、しっかり」と励まされたが、あの時の自分から何も成長していない。やはりメンタルが弱いのは直しようがないのかどうかわからないが、この先も同じような問題を抱えていかなければならない。今まで何とかなってきたらこの先も大丈夫。そう信じたいところだ。毎日が同じことの繰り返しだったとしたら、それはそれで苦しいことだろう。つまずくことがあって当たり前なのが人生だ。自分の母親は健在であるが、たまに食事するぐらいだ。今まで自分のことで散々心配をかけた上に、孫の進学のことで余計な負担を掛けられるわけがない。見守ってくれる唯一の肉親ぐらいに思うしかない。まけまけで時間を過ごせるのは休息になるが、生きていく上で武器になるスキルを一つでも身につけたいものだ。
イガチョフ