カレーライス

まけまけの学食では、学生のリクエストに応えてくれる。男性のKさんは、一番しっかりした体格で食欲も旺盛だ。好物はマカロニサラダでボールに残ったマカロニをそのままスプーンで食べるぐらいだ。早寝早起きのためお腹が空いてしまうようでコンビ二で調理パンを2個買ってまけまけに来る。そのKさんからのリクエストがこうだ。「シチューかカレーライスを食べたい」今まで学食でカレーが提供されたことはない。どちらも大衆料理でどちらかと言えば子供向けだ。あいにくルーがビーフシチューしかなく、「肉は豚肉でいいかい」と調理担当のJさんが聞くと「やったー」とKさんは満面の笑みを浮かべた。玉ねぎ、ニンジン、じゃがいもと具沢山のビーフシチューができた。家庭の味を大切にする学食メニューは飽きが来ない。次はリクエストのカレーライスを楽しみにしたい。カレーライスと言えば、自分にも思い出がある。父が家族のもとを離れ単独で生活することになった。引越し先はワンルームのアパートで、母と妹が荷物を運び込み父が生活できるようにお膳立てた。母と父の仲は険悪で、別居となってしまった。自分はどちらにもつかない中立の立場を選んだため、母の顔色を伺いつつも、父を心配していた。父は定年退職後、鬱病だと訴えて自ら精神科に入院したこともある。それに家族は振り回され母も妹も父に愛想が尽きていた。引越しして落ち着いた頃を見計らって父のもとを訪ねた。週に2回、ホームヘルパーが来て掃除や調理をしてくれているので部屋は片付いていた。父は万年床の布団の上に座りテレビを見ていた。滅多に外出することはなく、買い物もヘルパーまかせだ。父は炊飯ジャーでご飯も炊けないような人だった。父に「何か食べたいものがあるのなら作ってあげるよ」と聞くと、父は「カレーライスが食べたい」と力なく答えた。出来立てのカレーを、目を瞑ってうまそうに食べる父。残ったカレーは今日中に片付けるように伝えてアパートを後にした。カレーは日本人のソウルフードであるのだ。