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  • イガチョフ

枯れた言葉の泉

久しぶりに大通りまで出掛けた。平日にもかかわらず地下街は人であふれている。画廊に顔を出した。約2ヶ月ぶりである。昨年暮れにインフルエンザにかかってから体調を崩し、とても人ごみに入ろうという気が起きなかった。何よりまけまけ中心の生活サイクルが安定していたので、人付き合いも縮小していた。街を歩くのは体力より気力が必要だ。目的意識がないままに歩くのは拷問に近い。画廊でお茶を飲み、ついでだからと行きつけの喫茶店にも顔を出した。珈琲の味にはうるさいほうで、この喫茶店の豆だけにこだわっていた時期もあるが、久しぶりに飲んでみると味気なかった。何も高い金を払って飲むこともないなと思った。結局、街には2時間といられず帰りの地下鉄に乗った。今日はまだましなほうで、人と接触し会話できた。ひどい時だと、街に出ても誰一人とも言葉のやり取りがない。まるでマニュアル対応のコンビニ店員しか世の中にいないのではと思うときがある。お金と商品の交換だけで、そこに言葉は必要ないのが都会だ。とある回転寿司店は、席の案内から注文,そして精算まで一切人間が介在しないところもある。すべてコンピュータ対応で終わってしまう。「いらっしゃいませ」も「ありがとうございました」もない。それが当たり前の世の中になりつつある。スーパーのレジも同様で、セルフレジの導入が進んでいる。人件費の削減で、機械が導入されているのだろう。現金から電子マネーへの流れが加速している。最近では現金を出す客がもたもたすると、後ろで待つ客がいらいらする。効率を高めているけれども、人間はアナログなので機械のように正確には行かない。セルフレジでは万引きの防止もできないし、バーコードの読み忘れが多発しているという。以前のようにチェッカーの店員によるレジに戻す店舗も出ている。人と人をつなぐものは言葉である。沈黙も一つの意思表示であるが、やはり言葉がないと何を考えているかはわからない。言葉に飢えている人が増えているのではなかろうか。

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