夕方、娘から着信があった。メッセージが入っていないのでこちらから電話すると、娘の声がした。蚊の鳴くような声で、学校で体育の時間に倒れたと言う。要領を得ない説明ではあったが、大事には至らず保健室で休んで快復したことがわかった。説明しているうちに泣き出してしまい、詳しいことは家についてから聞くことにして電話を切った。娘の目は涙で腫れていた。5時間目の体育は卓球で、卓球台をたたんだ時に気を失い倒れてしまい、左手の小指を挟んでしまった。そのまま隣の友達の肩に倒れこんだ。顔面蒼白で唇の色も白かった。友達に抱えられて保健室に行ったがよく覚えていない。倒れる瞬間は、視野がまるでテレビのスクランブル放送のようになり耳が聞こえなくなった。保健室の先生からは、「もっと筋肉をつけて栄養を取らないとね」と言われ小指の手当てをしてもらった。担任もすぐ駆けつけたので安心できた。こんなことは初めてのことで本人もうろたえてしまった。倒れ方によっては救急車で運ばれたかもしれないとオーバーに訴える。いろいろな条件が揃って倒れたようだ。その日は湿度が高く教室も蒸し暑かった。今年から窓に備え付けのエアコンが導入されたが何の効果もない。制服のスカートが意外と熱がこもってしまうと教えられた。先週末は高校最後の学校祭で準備に追われて疲れていたりした。三食食べていたが、もっとこってりした物を食べさせないといけないのだろうか。明日は奮発してロースヒレカツをとんかつやで買って食卓につけようと約束した。一人親でこういうハプニングに見舞われると焦ってしまう。今までも骨折で病院に駆け込んだ経験があり、今回も一瞬悪夢がよぎった。貧血で倒れるのはよくある話で他人事なら聞き流されるが、我がことになると勝手が違う。娘を落ち着かせるために、こちらは平静を装うが内心心配で仕様がなかった。何事もなくて本当に良かった。娘に頼られるだけまだ自分の役割がある。自分の心配だけしているわけにはいかないのが親家業というものだ。
イガチョフ